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  • 2010-01-30 (土) 12:43
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project「.review」

「失われた10年」から、さらに10年の歳月が経った。日本を覆う終わりの見えない不況は、少なからずメディアと知の世界にも影響を与えている。かつて分野を越えて情況を共有し、分野を架橋する機能を果たしていた雑誌は次々と廃刊になっている。残っている数少ない座席も既出の著名な書き手たちに占められている。それゆえ経験に乏しく、慣習を理解していない新しい書き手が割って入る余地は乏しい。

このような厳しい状況の中でも、新しいメディアが現れている。哲学者で小説家でもある東浩紀氏による『思想地図』、社会学者芹沢一也氏、批評家の荻上チキ氏による「SYNODOS」、批評家宇野常寛氏率いる第2次惑星開発委員会『PLANETS』、社会学者鈴木謙介氏がパーソナリティをつとめる「TBS文化系トークラジオLIFE」などは、その代表だ。分野も、対象も異なるが、共通するのは自分たちが読みたい、聴きたい情報を得るために、自分たちで場を作り上げていることだ。

翻って研究者の卵という私たちの立場を鑑みたときに、いまできること、すべきことはなんだろうか、と考えるに至った。一昔前には学会誌や商業誌以外にも、企業CSRやメセナの位置づけの中で、若手の登竜門といえる媒体が少なからず存在した。またかつては大学院、特に後期博士課程もそのような機能を有していた。少なからず、そのような媒体は雑誌とともに軒並み姿を消し、新しい場となりつつあったブログブームも一巡。徐々に一般に認知されるきっかけとなる場所がなくなりつつあるのが現状だ。

このような状況の中では、もはや新しい書き手が頭角を現していくための場を企業や既存媒体に頼り切ることは困難である。だとすれば、このような場を自らの手で作っていくことが、私たちにとってのリアリティなのではないだろうか。私たちは、問題の責任を誰かにおしつけることも、実現する見込みのない革命に期待することも、そして勝手に捏造された絶望の押し付けなど望んではいない。私たちが欲しているものは、冷静かつ正確に現状を見据えたうえで記述された処方箋にもとづく希望の言説だ。

私たちは、ここに project「.review」の開始を宣言する。

「review」とは、「見直すこと」、そして「再び見ること」という意味だ。敷衍すれば、「.」(dot)すなわちインターネットの上に、知と書き手と読み手の「再会の場」を作り出すとも捉えられよう。project「.review」は、あらゆる知と、まだ世に出ていないあらゆる書き手、そして、あらゆるメディア、そしてあらゆる読み手をブリッジするハブとなる場となることを目指す。

今、眼前に広がっている情況を、その最前線に立つ者たちの言葉で紡いでいく。そのうえで私たちのパースペクティブから見える「現在」を伝え、そこから新たな知とメディアの未来を作りあげていくことが目的である。

project「.review」は、次の形態で始められることになる。ウェブ媒体を通じて無償頒布される、主に現時点で無名な書き手を中心とする「.review β」と、既に商業媒体や学術分野で活動を行っている書き手による論考と企画を含む「.review Premium」だ。

「.review β」は、インターネットを通じて、ある一定の期限を設け、アブストラクト(概要のこと。500字)を広く募集する。分野、テーマは一切問わない。ポートフォリオも可能。アブストラクト提出の後、編集チームとのインタラクションを経て、論考(約10000字)もしくはノート(約4000字)に仕上げてもらう。新しい書き手の周知と媒体の宣伝を兼ねて、これらは随時無償頒布する。このように編集スタッフとのインタラクションは、形式を整えることに徹することになる。なお、ガイドラインについては後日、別途配布する。ただし、当然のことながら公共性に反するものを受けとることはできない。この判断は編集チームが下すことになる。また内容の真偽とクオリティ、剽窃等に関する責任は編集チームではなく執筆者に帰することになり、論考と執筆者の評価については読者と市場に委ねられる。

他方で「.review Premium」は、βの原稿からテーマに合わせて原稿を厳選、さらに再度公募する。βで公開されていたものは公開時よりさらに推敲していただくことになる。加えて既に商業媒体や学術分野で活動を行っている書き手による論考、企画を含む媒体となる。こちらはダウンロード販売、また、紙媒体での販売を実施する。「.review Premium」をはじめとするマネタイズをもとに、将来的にはイベントなども実施していきたい。もちろんマネタイズのあかつきには、執筆者に還元する仕組みを用意する。また、既存のメディアや媒体とのコラボレーション、スピンオフにも積極的に取り組んでいく。

既存の媒体をイメージする者にはこうした新しい形態に抵抗があるかもしれない。だが、それは過去の常識に囚われている。2010年代のインターネット上のストレージ容量は、事実上無制限。建築の言葉でいうところの「切断」を行う必要はない。まだ若い編集サイドにも当然「質」を見分けるだけの力量もない。スタートアップ・メンバーが持っているのは、狭い専門分野の知識と熱意だけだ。したがって私たちにできることは、エンパワーメント、それだけだ。

しかし、ポジティブに捉えれば、新規性ゆえに査読で弾かれてしまう論文や、ニッチなニーズに答える原稿も掲載できる。目指すところは「結果の平等」ではなく、「機会の平等」だ。幸い手軽に使える高機能なICT媒体が充実している時世でもある。一昔前には膨大なコストがかかったプロジェクトも、今では驚くほど低コストで実現可能だ。スタートアップのメンバーを中心に、twitterを介して出会った全国、いや、世界にも広がる仲間、そしてまだ出会っていない新しい書き手たち自身の手によって、あらゆる情報をブリッジするメディアを、まだ誰も見たことのない形で作ってみたい。その意味では、このプロジェクトの成否は参加者のコミットメントに掛かっている。あらゆるアイディア、手法、企画を随時アドバイスいただけると幸いだ。そしてなにより、コミットすることでこの新しい試みの一員になってほしい。

このようなプロジェクトは日本のtwitterからはほぼはじめての試みになるはずだが、私たちはこのプロジェクトの成功を確信している。このプロジェクトのために設定したtwitterのハッシュタグ「#commu2010」やRTを通じて、既に私たちがいただいたさまざまなな分野の多くの応援メッセージや後押しからも十分な手応えを感じている。

project「.review」は、2010年代を牽引する、理想と希望、若さ(そして、それゆえの無謀さ)によって支えられた社会実験であり、また情報化社会を背景とする現代の革命でもある。project「.review」が新しい書き手と新しい知、既存メディア、読者をブリッジするハブとなることを願っている。

2010年1月吉日

  • 西田亮介
  • 塚越健司
  • 天野彬
  • 淵田仁
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